平均寿命の伸びとともに,少子化の進行によって,超高齢社会となった日本。
少子高齢化の進行は,先進諸国が抱える共通の課題でもあります。
そうした中で,近年,認知症に関する数多くの研究が行われてきました。
新たな事実も発見され,認知症に関するイメージは,今,大きく変わってきているように
感じます。
これまでは,「認知症の進行は止められない,治らない」というイメージが強かったと思い
ますが,最近の研究で,「認知症の予防と進行を抑えることは可能であり,そして,
その取り組みに遅すぎることはない」ということが明らかになり,注目されています。
認知症の原因は,神経細胞によって結びついている,脳内ネットワークの繋がりが弱まること
にあります。
電気信号で情報を伝える役割を担っている神経細胞は,周囲の血管から栄養と酸素をもらって
活動しています。
この神経細胞や血管に異常(微小出血等)が生じると,脳内ネットワークは衰退していきます。
これが,認知症の症状を引き起こす原因となるとされています。
ですので,脳内ネットワークを衰えさせないことが,認知症の予防に大きく関係していると
いえます。
つまり,脳内の神経細胞を傷つけないこと,脳内の血管を流れの良い丈夫な状態にしておく
ことがとても重要になります。
では,具体的に,どのような取り組みをすればいいのでしょうか。
フィンランドで行われた,脳内ネットワークの回復についての研究(フィンガー研究)では、
認知症予備軍ともいえる軽度認知症害(MCI)の疑いのある方達を対象に,以下のような生活
を2年間送ってもらいました。
1)30分程度の早歩きなどの有酸素運動を週3回
2)軽い筋力トレーニング
3)食生活の改善(低脂肪・高タンパク・減塩)
4)10分程度の記憶のトレーニング(神経衰弱のようなゲーム)を週3回
5)毎日の血管管理で高血圧を防ぐ(脳内の微小出血を防ぎ脳内ネットワークを守る)
その結果,この取り組みをした人は,しなかった人に比べて認知機能が平均25%も上昇
しました。
何か考えながら運動することで,脳内ネットワークが活性化し,特に記憶力の向上に効果が
あるということも判明しました。
また,運動については強度が重要で,激しすぎず軽すぎという程度,脈拍を120程度に上げる
くらいの運動が最も効果的なのだそうです。
通常,加齢とともに認知機能は低下していきます。
この研究は,そうした加齢による認知機能の低下を防ぎ,かつ上昇させることに成功した研究
として,世界中で注目されました。
現在,日本には,認知症の予備軍ともいえる軽度認知症害(MCI)とされる方が,約400万人
いるとされています。
たとえ,この予備軍の状態にあったとしても,その段階をどのように過ごすかで,認知症への
進行を食い止めたり,症状を改善する可能性が大いにあるということが,最近の研究で明らか
にされたのです。
認知症の予防は,いつからでも,遅すぎることはありません!
まずは,日頃から,脳内ネットワークを衰えさせないように,適度の運動と血管を痛めない
ような(=血管の老化を防ぐ)食生活を心がけていきましょう。